聞きたかったメンタルヘルスの話 緊急掲載
このコラムは筆者が以前某医療コラムで連載していた修正前の記事本文です。内容は作成当時のもので、現在は異なることもありますので、ご了承下さい。あくまでアーカイブとしてご覧ください。
相模原障害者施設殺傷事件.。残酷で卑劣な事件が起きてしまいました。
「障害者」という社会的弱者を、抵抗できない人ばかり、致命傷になる首という弱い部分を、寝ている時間を狙い標的とするという卑怯な事件です。二十一人がが負傷し、そして十九人の尊い命が奪われました。
亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、まだ傷を負っている方の1日も早いご回復をお祈りし、ご家族のいたたまれない思いにふさわしい言葉が見つかりませんが、せめてもの哀悼の意を表します。
僕は精神障害者で、ピア・スタッフとして障害者支援の一端を担っています。そんな現場ではせっかく障害者理解が少しずつ進み、少しずつ「自分は障害者です」と言え始めることができたのに、この事件が起きたために「自分が障害者だ」ということに怯えている方が出てきています。
人には好き嫌いがあります。好きになれない人、苦手な人、理解ができない人もいるでしょう。博愛なんてできる人はほんのわずかだと思います。僕にだって理解しがたい人、許せない人、好きになれない人がいます。自分の視野の中に入れたくない人がいます。約束を守れない人、時間にルーズな人、横暴な自己主張をする人。。。知らずのうちに避けている人もいます。関わりたくないと思っている人がいます。でも自分がそれに似ているところがあるのも否めません。
でも、人格やその人の尊厳、命の尊さは否定していません。それを奪う権利は誰にもありません。
障害者と関わるのが苦手な人もいるでしょう。積極的に関われない人もいるでしょう。ラッシュアワーの中で車椅子の人に舌打ちする人もいるし、白い杖で確認しながら歩いている視覚障害者に声をかけていいか戸惑う人もいるでしょう。中には障害者に優しい言葉をかけたのに、かえって不本意な態度をされたことがある人もいるでしょう。
でも、障害者たちも必死で生きているのです。バリアフリーが進んでいると言ったって、都心の駅にせいぜいエレベーターが駅の端に一つや二つです。まだまだバリアフリーではないのです。
そんな生きづらい社会でも必死で生きているのです。
あなたは何気に何かを差別していませんか?差別しているとしたら、何が差別させていますか?
僕はピア・スタッフとして、自分でも障害と向き合いながら、障害者の社会参加に向けての支援をしています。表情が硬かった人に、ふとしたことで笑顔を見ることができた時は、本当に嬉しいです。この人の笑顔がもっと増えるようにしたいと思うのです。また、障害者支援というのはその方の尊厳や人格、性格に深く関わるお仕事です。だからとても人間らしさを感じる仕事でもあります。障害者から優しさや愛情や生きる日々の大切さの意味を教わることだってあります。僕にとって彼らは大切な命です。
障害者を好きになってくれとまでは言いません。でも、障害者の人権、尊厳、人格の尊重、命の尊さ、可能性を奪わないでください。攻撃などしないでください。関わらないとしても、社会からは排除しないでください。理解しがたい言動や行動、うまくコミュニケーションできないことに疎ましく思われる方もいますが、あなたと同じ社会で生きています。社会の一員として障害者が存在することを否定せず理解してください。もし、関わりたくないとしても、健康的なあなたが少し遠回りしてください。障害者はあなたが簡単に移動できるところを同じように簡単に移動できないのです。それを理解してください。
今、あなたにとって障害者は身近な人ではないかもしれません。障害は生まれ持った方もいれば、人生の中で持つ方もいます。もし、あなたの家族が障害を負ってしまったとしたら、どうしますか?あなたの大事な友人や恋人が、交通事故などに遭い、障害を負ってしまったとしたら、どうしますか?一緒に乗り越えるなんていう、映画のようなストーリーには現実にならなかったとしても、誰かの支援を受けながら、各々の人生を謳歌することは大事にするはずです。
障害者差別禁止法など、制度や法律などはありますが、本来はそんな法律がなくても、人として社会として当たり前にあるべき機能だと思います。困っている人がいれば助ける、助けたいと思う当たり前のことですよね。
また今回の事件では、犠牲になられた方々のお名前やお写真は公表されていません。ご家族のご意向だそうです。今まで大変なご苦労があった上に、さらにこんな卑劣な事件に巻き込まれて、当然のお気持ちだと思います。
でも、これが健常者であれば、マスメディアはこぞって報道するでしょう。また報道内容にもマスメディアが戸惑っている様子もうかがえます。
これらは、今まで社会にあった「差別」という歪みを表しているのだと僕は思います。テレビのニュースキャスターは「合理的配慮を」と平々淡々と言っていますが、どんな思いで言っているのでしょうか。彼らは本当に差別していないのでしょうか。
政府は予防のためにとすぐ動き始めましたが、着目したのは「措置入院」やその退院した後の処遇であって、障害者に対する社会での尊厳ではありませんでした。
障害者も当たり前に健常者と同じ社会で生きている、そんな社会に向かうことを祈るばかりです。もし、社会から差別され閉所に閉じ込めるとしたら、今回のような卑劣で残酷な事件の犯人だけで十分です。
平成27年7月31日
コメント