人としてのチカラ

聞きたかったメンタルヘルスの話 vol.12

このコラムは筆者が以前某医療コラムで連載していた修正前の記事本文です。内容は作成当時のもので、現在は異なることもありますので、ご了承下さい。あくまでアーカイブとしてご覧ください。

 発達障害圏、例えばADHDの方や「自分はもしかしたら発達障害?」と悩んでいる方への支援はまだまだ十分であるとは言えません。またその支援に戸惑っている方もいらっしゃるでしょう。ではどのようにその方のチカラになるか。それは何度でも優しく指摘して、丁寧に説明してあげることです。実は具体的に説明されぬまま疎外されることが多く、本人たちもとても苦しんでいるのです。

 例えば、声や言動。声で周囲をビックリさせてしまうことが多いようです。職場などではとても重要なことです。僕が実際、支援した時にお伝えしたのは、「声の大きさを少し抑えて。顎を突き出していると誤解を与えるから、顎を引いて優しく人に話し開けてみてください」ということでした。はじめは、声を小さくしすぎたり、顎を引くのに時間はかかりましたが、その方はちゃんとビジネスにふさわしい立ち振る舞いをできるようになりました。唐突に言動が出るのも、「今、声をおかけしていいですか」とか「ちょっと話ししてもいいですか」など前置きをしてみたらと提案しました。

 職場では他にも緊張しすぎて休憩を忘れるくらい没頭してしまう方もいました。その方には「アナログ置き時計」をデスクに置くのを勧めました。長針が12にかかったら休憩室へ行く練習をしました。はじめは忘れがちでこちらから声をかけていましたが、しばらくすると自分で休憩時間に入れるようになりました。

 何度も同じ指摘をしなければいけないなど支援や周囲も大変かと思いますが、その方がそのスキルを身につければ双方にとって数倍も快適な空間になるので、具体的に指摘して支援していきましょう。

 こうやって人は、発達障害や精神疾患になっても支援や教育があれば色々な力をつけ、または取り戻すことができるのです。それでは他にどのようなチカラがつけられるか、その支援が今社会に足りていないか触れてみましょう。

「好きになるチカラ」

 これは人間にとって一番基本的な感情といっていいでしょう。でもそのチカラさえ奪ってしまうのが精神疾患です。恋愛の場合、精神疾患になると人を好きになることさえ怖くなり、また物事に関心を抱くことが薄れていきますから何かを好きになることもなくなってきてしまいます。これは楽しい時間と思える機会を増やしていくことがカギになります。

「考えるチカラ」

 これは前回のコラムでもお伝えしました。「考えること」ができない人は身近な自分のことから自分で決めていきましょう。そして何でそれを選んだかを振り返ってみましょう。「考える」ことの始まりは「好きになる」ことの一部でもあります。「好きな人を振り向かせるにはどうしたらいいか」。これは永遠のテーマかもしれません。

 また「マニュアルにないことはわからない」方は、マニュアルを自分で充実させることや、助言をもらったことをマニュアルに足していきましょう。そしてわからない時、困った時は確認、報告、相談、連絡が4大原則です。

「信じるチカラ」

 人は時にして裏切られます。人を信用できなくなります。それで精神疾患になる方もいるでしょう。この時大事なのは「受け入れること」です。結果が良くても悪くても受け入れることです。自分のことだけでも信じることから始めませんか。期待をして信じるのではなく、信じて期待するのです。占いや宗教はどちらかといえば期待して信じる方ですかね。それは否定はしません。でも未来に期待して何かを信じるのではなく、自分を信じて自分の人生も受け入れて未来に期待しませんか?失敗は次回に活かしましょう。失敗も許せるくらいに人や自分を信じることができたらとてもステキだと思いませんか。なんか哲学みたいになってしまいましたね。

「決めるチカラ」

 自分のことは自分で決めましょう。基本ですね。でもその権利さえ奪われているとしたら。。。精神疾患になった方で過去、自分では不本意な決定を誰かにされたことがある方もいると思います。長期入院されていた方は特にそういった場面もあるでしょう。自分で責任を取る形になりますが、これもあなたを守る人権のうちの一つです。決まられない方は自分の身の回りのことからでいいので、自分で決めましょう。レストランのメニューで迷う方も、誰かに合わせるだけでなく自分で決めてみましょう。

「表現する力」

 特に日本人は自分のことを表現するのは苦手です。せっかく素敵な感情を抱いても隠してしまう文化があります。そのせいでしょうか、プレゼンテーションをとても苦手としていますね。自分が何を思っているか、何を伝えたいか。これを表現できるかどうかはとても大切なのです。特にSOSを必要とするとき、この力があれば早い段階でSOSを出せるようになります。

 また表現するのは言葉だけではありません。絵画や歌、楽器などを鳴らす、アクションと様々です。顔の表情もそうですよね。これに対する「受信するチカラ」や「読み取るチカラ」も相手には求められるのですが。

「つながるチカラ」

 人は一人では生きてはいけません。誰かと繋がって初めていろんなことを覚えていくのです。でも精神疾患になると孤独になりがちです。引きこもりになる方もいます。引きこもりになった方へはささやかなアプローチが絶えず必要です。何がつながるきっかけになるかわからないからです。オンラインでのPC画面やゲーム、スマホ画面が彼らの信じるツールになることもあります。今までSNSに関してはいいことはあまり言ってはいませんでしたが、この場合は有効であると思っています。Face to Faceでなくてもメッセージアプリで簡単にメッセージのやり取りができ、つながることができれば、そういうことが積み重なりタイミングがきたら、表に出ることができるかもしれません。

 引きこもりでなくても、なかなか人と繋がれていない方は支援者の力や電話相談などのチカラを借りてみましょう。

社会で生きていくために

 有名塾の林修先生は、社会で生き抜くためには「問題解決力」と「創造力」と謳っています。とても大切だと思います。僕なりにここに一つあえて付け加えさせていただくとしたら「伝達能力(コミニュケーション能力)」です。人として育めるのに誰も触れずにいる数々のチカラについて書きました。これは精神疾患と社会の溝にある重要な課題なのです。このままにしてはいけないと思っております。

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